君を連れてゆく。

 旅から家に戻り、やっと落ち着いて一人の時間を過ごしている(部屋の中はけっしておだやかな状態とは言えないが・・・)。昨日は家に着いてゆっくりしようと思っていた矢先に友人からスタジオに誘われ、再び夜の街に出かけたから今の時間は遠い昔のようにも思える時間と再会した気分だ。

 一週間ほど前に実家を出てサークルの合宿にニ、三日滞在してそのまま東京に向かう予定だった。しかし、ご存知の通り台風の影響で雨がやむことはなく合宿場所である斑尾を出てぜんぜん進めなかった。そして、軽井沢にいる友人に連絡して家に泊めてもらえることになった。軽井沢なんて場所に行くのは初めてで人生で行くことはないと思っていた場所だ。雨宿りのつもりだったが雨も長引きそこで俺は三泊もしてしまった。その間俺はジョン・レノンのお気に入りだった場所に行ってみたりした。ガイドブックにも必ず載っているそれらの場所はおそらくただの観光地だろうと思っていたが、はたしてそうではなかった。ジョン・レノンが毎朝のように通っていたフランス・ベーカリーのフランスパンは俺の好きなうまいパンの味だった。ただの固いパンなんかではなく、かめばかむほど味がにじみ出てくるパンで俺は30cm以上はあるであろうそれを一本まるまる食べてしまった。
 軽井沢はたしかに金持ちの場所で観光地なのかもしれないけど、オフシーズンの雨の軽井沢ってのは悪くないと思った。フランス・ベーカリーと同じ通りにある服屋さんでジェリー・ガルシアのTシャツを買ったとき、気さくな店員のおっさんは割り引いてくれた。ユルい感じがした。ホントはもっと気取った場所なのかもしれないけどね。

 というわけで、雨が止み晴れ渡った空の下東京に戻ってきました。なんとなく旅してしまったけど、いろんな事が起こった。エピソードの一つ一つの感動は大きいけど思い返せばやはり遠いものに思える。今日、バイト先に顔を出してきて社長にこう言われた。
「お前、何が目的だったの」
今回の旅の目的はなんだったんだろう。考えても出てこない。そりゃ目的地はあったけど。旅先でグッと来たことのほとんどは偶発的で、そしてそれが俺のエンジンになった。やっぱり目的なんてなかった。一つ思うことは俺にとっても目的があってそれを達成したところに面白みのあるエピソードなんてない。

 気がついたらもう九月だ。